夏の句

ネクタイを解く手もどかし冷ビール

腹這いて愛犬と観る蟻の列　　　

子規居士も仰ぎし天守梅雨の中

薬師寺の老管長の日傘かな

ふと触れし君の手涼し雨やどり

踏切りの遠く聞こえて夏木立

絶壁の青葉若葉や川に落つ

駒下駄の頼りなげなり初浴衣

野仏の微笑みてをり梅雨晴れ間

左遷地に口はさむまじ夏の月

子規堂の蔦の青さや句碑一つ

哀れなり友をあざむく囮鮎

水彩の紫陽花の藍藍ならず

帯結ぶ手のもどかしき遠花火

緑陰をひとり占めして仮寝かな

海へ行く前の夜風呂で泳ぐ子ら

泳ぐ子を遠く眺めし砂日傘

夏帽子去年のしみの一つあり

君の手の震えてをりぬ木下闇　

占いのテント出づれば夏の月

蝉時雨とぎれて覚める昼寝かな

茄子漬や白き九谷のなほ白し　　

片陰を一列に行く散歩かな

流星や山黒々と息ひそむ

果てしなき大海原や西瓜割り

青すだれ巻き上げて待つ通り雨